これまで私がアトミックをプレイした経験を元に、私を含めた多くの方々にとってプラスとなるよう、沢山の教材を作ってきた。 これは主にリチェスのスタディの集まりから出来ており、様々な異なるトピックが含まれている。 PGNで提供することを将来検討するかもしれないが、リチェスのスタディが進化し続けると思う(訳者注:「のでリチェスのスタディを見てもらうほうが良いだろう」という意味と思われる)。
エンドゲーム
アトミックで学ぶべきことの中でも、おそらくエンドゲームが最も重要なトピックだ。これは初心者であれ上級者であれ当てはまることだ。 基本テクニックは普通のチェス(訳注:以下単にチェスと呼ぶ)のエンドゲームと大きく異なる。 以下に示した最初の3つのスタディが、あらゆるアトミックのエンドゲームテクニックの中でたぶん実戦において最も重要だろう。
訳注:以下では、ピースをアルファベット1文字で略すことがある。 (K:キング, Q:クイーン, R:ルーク, B:ビショップ, N:ナイト, P:ポーン)
- 孤立キングのエンドゲーム (英語) - 孤立キングとの戦いにおける勝ち方を示した。KQ, KQQ, KQB, KRR, KRB, KRN対孤立Kのパターンを網羅している。
- KQP対KP(英語) - クイーンを1つ得した状態からの勝ち方を示した。最も重要な”勝てる局面を勝ちきる方法”であり、習得するべきだ。このエンドゲームは、なぜ1ポーンのマテリアル差(訳注:駒の損得)がアトミックで勝利に繋がるのかを示している。
- KQ対KP(英語) - これもまた重要なエンドゲームの一つであり、基礎的なエンドゲームの中では最もトリッキーなものでもある。トップ10に入るほどのプレイヤーであっても、(クイーン対ルークポーンの局面で)間違えたことがある。このエンドゲームは、マテリアルで互角な状態のポーン昇格レースが決着した後に生じる。局面によっては、ポーンを持っている側がドローを取れることさえある。
下に示した残りのスタディは、上の3つと同じぐらい最重要ということはないだろう。だがこれらのスタディを知ることで、局面を勝てるエンドゲームに持ち込む必須の武器を手に入れることになる。つまりどうやって勝てるエンドゲームに持ち込むか考える時に、間接的にミドルゲーム(中盤)の指し手が正確になる。
- ポーン化(英語) - “ポーン化”という考え方を示す。片方のプレイヤーがポーンだけしか持っておらず、もう片方のプレイヤーがポーンとビショップを持っている場合を考える。ビショップを持っている側は、相手ポーンが全てビショップと違う色のマスにいれば、ビショップの使い道は無いと悟るはずだ。このようなエンディングでは、ポーンストラクチャーやツークツワンクに絡んで、非常にトリッキーな考え方が通用する場合がある。ポーン化の考え方を知っていれば、本来負けるはずだった多くの対局をドローにすることもできるし、ドローになるはずだった対局を勝ちにすることもできる。
- 四角形ルール(英語) - KP対Kのエンドゲームをもっと簡単に読み切るための方法として、四角形ルールが提唱されている。これはチェスにおける正方形ルールに似ている。ここで示した考え方は、ある種のもっと複雑なエンドゲームを解析するのに役立つ。
- KPP対KP: バックワードポーン - ポーン2つ対ポーン1つの局面では、先にポーンを昇格させた側が勝利を得る。 だがポーン1つの側が、ポーンで相手のポーン2つをせき止めている場合は、KQ対Kのパターンに持ち込まれる可能性があり、この場合連結キングにする以外にドローにする方法はない。それでも、いくつかトリッキーな勝ち方が存在しているし、相手が受け方を間違えるという希望もある(受け間違えるのは驚くほど簡単だ)。正しい受けのテクニックを学ぼう。学ぶのはこれが最後でいい。一度学べば、今後二度と0.5点を落とす心配をしなくてよくなる。
- KPP対KP: 練習問題 - 上に示したKPP対KPのスタディに添える練習問題を用意した。計算力を磨くのに適しており、他のスタディから得られる学びを増強する効果もある。
- 上級者向け KQ対KP - 基本的なKQ対KPのスタディではポーンがブロックされた状態からスタートしていたが、この上級スタディではポーンがブロックされていない状態のポジションを検討する。基本的なスタディで示した知識は必ず必要となる。しかしここで解説した内容を理解すれば、この種の基本的なエンドゲームの理解はコンピューターエンジンに搭載されているデータベースと遜色ないレベルまで到達できるはずだ。
- 上級者向け KQ対KP: 練習問題 - 上に示したKQ対KPのスタディに添える練習問題を用意した。これらは学ぶ価値のあるポジションであり、いくつかは非常にトリッキーである。KQ対KPは一見シンプルなエンドゲームだが、このスタディに示したポジションはその奥深さをアピールしている。
- KRP対KP(英語) - 互いのポーンがブロックされていてルークアップになったら、いかにして勝てば良いか? 比較的珍しいエンドゲームだが、ポジションによってはKQP対KPよりトリッキーである。
- KR対KP - 難しいエンドゲームだが、KRP対KPに比べて発生頻度は高いと思われる。白番は驚くほど多くの局面で勝つことができるが、その勝ち方は実戦で見つけられるほど分かりやすいものではないだろう。
- K + 2ピース対KP - 基本的なエンドゲームの組み合わせだが、見た目から受ける印象とは違って対局中に勝ち方を見つけるのはたやすくないだろう。だがこういったエンドゲームの勝ち方を知ることによって、”簡単に勝てる”エンドゲームへ持ち込む手法の幅を広げることにつながるはずだ。
対局の解析
対局を解析することはチェスの実力を磨く上で優れた方法であり、この点はアトミックチェスも同じだ。それができないのであれば、注釈付きの対局から学ぶのが次善の策であろう。
- 私の過去の対局より - 私がまさにアトミックを始めた頃の対局(昔の対局)から、いくつかの対局をピックアップして振り返りをしたスタディである。
2017年のアトミック世界選手権 (Atomic World Championship、以下AWC 2017と略) は2017年の11月から12月にかけてlichess.org上で行われた(主催はtipau氏)。私はAWC 2017の対局のうち200以上を解析してきた。ここでの解析とは、単にコンピューターエンジンの評価値を見ることではなく、人間がポジションをどう考えるかとかどんな特徴があるかといったことを人力でコメントしながら考えることである。もちろんタクティクスについても人力で考える。あなたが今どのレベルであったとしても、ここに示した対局から得るものが何かあるはずだ。
- AWC 2017 Round 1 上
- AWC 2017 Round 1 下
- AWC 2017 Round 2 上
- AWC 2017 Round 2 下
- AWC 2017 Round 3
- AWC 2017 Round 4 (準々決勝)(一部ゲーム)
私はFICSのデータベースから派生ルールの棋譜をダウンロードし、2009年から2018年までに指されたアトミックの対局を抽出した (7z圧縮されたPGN, 11.7 MB)。このデータは、アトミックに興味を持っているプレイヤーが昔の棋譜を鑑賞できるようにするために用意した。
オープニング
オープニングの研究は、アトミックの中でもよく誤解されている部分の1つだ。主流になっているアトミックの理論は深く明瞭に研究されている。だがそれを詳しく知っていれば、アトミックで強さを発揮できるわけではない。私個人としては、オープニングのレパートリーは深さよりも幅広さを優先するように努めている。なので主流のオープニングと同じくらい、変わったオープニングについても解析を進めてきた(変わっているとはいえまだまだ戦えるオープニングであり、実戦では有効に機能する)
もし私が下記で使用したオープニング名に違和感を感じたり、最初にこれらのオープニングをプレイしたり解析したプレイヤーとの歴史的つながりが抜けているのを見つけたなら、それについても申し訳ないと思う。ここで使われているオープニング名は単に、私がこれらのラインを思い出すためだけに使っている。これらのオープニングに名前を冠すべきプレイヤーに思い当たったならば、ぜひ教えてほしい。
- 零時(Midnight) - 1. Nf3 f6 2. e3 d5 3. Nd4 、あるいは 3. Bd3 g6 4. Nd4で始まるオープニングである。非常に理論的な3. Ng5/Ne5のラインに比べて圧倒的に不人気だが、それは過小評価されているからだ。黒番で対策せずにこのオープニングに直面すれば、簡単にトラップに引っかかる。そうならなかったとしても大体の場合は不利なポジションに陥ってしまう。
- 真昼 - 1. Nf3 f6 2. e3 e6 3. Bd3!?で始まる興味深いポーンギャンビットである。3…Bb4 4. c3 Bxb4と進むことで真昼 アクセプテッドとなる。ギャンビットの一種ではあるが、白番として成功を収めるためにはポジションの理解が重要なポイントとなる。つまりピースの展開の良さと黒番に黒マスビショップがないことを利用するということだ。真昼で始まる対局はちゃんとした結果を伴っており、戦えるオープニングである。この事実が意味するところは、”客観的に見て正しい”コンピューター解析で示されたオープニングだけが全てではないということだ。
- Yokke 3…f5 - 1. Nf3 f6 2. e3 e6 3. Nd4 f5!? で始まるラインは、FICSの古参プレイヤーYokke氏によるアトミック理論研究への貢献である。黒番から見てこのラインは、いくつかある応手のうちでは比較的主流である。私はこのオープニングの継続手のうち9パターンほどを解析した。
- ZA 2…d5 - 1. Nf3 f6 2. e3 d5 3. Ng5 or 3. Ne5.で始まるオープニングである。白番のこのラインについては、私以外のプレイヤーから膨大な量の研究がつぎ込まれている。白番の選択肢の中では最も強い部類に入ると思われる。私は黒番視点でこれらのラインを検討して、黒番でも善戦できるということを示そうとした。実際に解析した結果、白番がこのラインを正確に指すのは思っていたよりも難しいと感じた。なぜなら黒番はほとんど全てのバリエーションでトリッキーなカウンターを仕掛けて、チェックメイトやピースダウンといった脅しをかけることができる。
- 船囲い - 1. e3 e6 2. Nf3 Qf6で始まるオープニングである。広大なアトミックのオープニングという海の中でも、より複雑な海域へ黒番から引き込んでいくラインである。ここで紹介している理論上のラインでは、ピースの損得が発生することが多い。
- 後手船囲い - 1. e3 Nf6 2. Qf3で始まるオープニングであり、舟の白黒逆にしたバージョンである。考え方は舟に近いが、舟よりも白が多く先手を取れるので大きな違いがある。
- 天馬行空(Fantasy Knight) (英語) - 複数の手順で到達可能なオープニングであり、黒がクイーンとポーンを切ってナイトを展開し、白を危険な状態に晒す流れになる。理論上は黒が有利かどうか疑わしいが、白としてどう対処すれば良いのか知っておくことが重要である。黒番でこのオープニングの時に白番を困らせるやり方を理解できたなら、アトミックの技術がより良くなるだろう。
- 右単提馬(Right Horse) - 1. Nh3 h6 2. Nc3 e6 3. Nb5 で始まるラインであり、ミドルゲームまでにクイーンが失われ、白がエクスチェンジアップまたはエクスチェンジダウンすることが多い。このオープニングは、アトミックの地力の強さを直接競い合うところがすばらしい。またミドルゲームとエンドゲームを、相手より正しく理解している側が勝つことが多いというのも良い。